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東京高等裁判所 昭和57年(ラ)84号 決定

抗告人 株式会社陶泉堂ハウジング

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、抗告人に対する売却を不許可とする、との裁判を求める。」というのであり、抗告の理由は、「原執行裁判所は、本件物件を一括使用できることを前提にして本件物件を一括して売却することを定め、一個の最低売却価格を付してこれを売却し、抗告人も本件物件を一括使用できるものと信じて買受けた。しかしながら、本件物件のうち原決定添付目録記載(1) 、(3) 及び(4) の土地の間には認定外道路(公道四〇・四六平方メートル、登記簿上宇都宮市徳次郎町字大谷道下三一番六宅地六四・六〇平方メートル)が存在し、高城興産株式会社が昭和五六年九月二九日右道路を国から買受けて所有権を取得しその旨登記が経由されているので、抗告人は本件物件を買受けてもこれを一括使用することは全く不可能となつてしまつた。もつとも本件競売記録中の現況調査報告書には右認定外道路の存することが記載されているけれども同時に右報告書には同道路の占有権限あるものはないと記載されていたので、抗告人としては、本件物件を買受ければ右認定外道路も当然抗告人に払下げられ、右道路を含めて本件物件を一括使用できるものと考えて最高価格による買受けをなしたものである。ところで、原執行裁判所は、本件売却許可決定をなすにあたり精密な調査をなしておれば右認定外道路に関する事情を認識し得たにも拘わらずこのような調査を怠つたために、一括使用の不可能な本件物件を一括使用が可能であるとして本件売却許可決定をなしたものであつて、右決定には重大な誤りがある。また、本件物件の買受人が前記認定外道路を本件物件とともに一括使用することができないものとすれば、本件物件の価格は少なくとも二、三割は低くなるべきものであるから、右の点を看過してなされた最低売却価額の決定には重大な誤りがある。さらに前述の認定外道路に関する事情の記載を欠く現況調査報告書及び物件明細書は、買受申出人に適正な判断をなさしめることを著しく困難にするものであるから、その作成に重大な誤りがある。よつて再度適正な売却手続をなさしむべく原決定の取消しを求める。」というにある。

そこで、まず、本件執行抗告の理由中執行官の作成した現況調査報告書の内容の瑕疵をいう部分の適否について考えるに、民事執行法七四条二、三項は売却許可決定に対する執行抗告の理由を法定しているのであり、右規定上、現況調査報告書の内容の瑕疵自体は執行抗告の理由とはならず、現況調査の誤りが最低売却価額もしくは一括売却の決定、物件明細書の作成に重大な誤りを生じさせた場合に、当該決定等の重大な誤りを主張して執行抗告の理由とすることを認める趣旨であると解するのが相当であるから、本件執行抗告の理由中現況調査報告書の内容の瑕疵自体をいう部分は不適法といわざるをえない。

よつて、その余の執行抗告の理由について検討する。

(一)  一件記録を調べてみるに、本件物件のうち原決定添付物件目録記載の(1) (3) と(4) の土地の間に認定外道路(登記簿上宇都宮市徳次郎町字大谷道下三二番地六宅地六四・六九平方メートル)が南北に細長く存在していること、右認定外道路はもと国有地であつたが、昭和五六年九月二九日、国から高城興産株式会社(本件物件の売却前の所有者。以下「高城興産」という)に売渡され、同年一〇月一三日同会社名義で所有権保存登記が経由されていることが認められる。したがつて、本件物件の買受人たる抗告人としては、右認定外道路を自己の所有地の如く使用することはできないのであるから、その限りにおいて本件物件を一体的に利用することの障害になるものということができよう。しかし、右認定外道路が存在するからといつて、また、右道路が国から高城興産に売渡されて同社の所有となつたかどうかにかかわらず、本件物件の一括使用が全く不可能となるわけではなく、かえつて本件四筆の土地を個別に売却するとすれば、前記物件目録記載の(1) 及び(3) の土地の利用価値は殆んど無きに等しく、同(2) の土地の効用も減殺される結果となることは、本件物件の位置、地形等からみて明白であるから、本件物件は一括して同一人に買受けさせるのが相当であると判断されるところであつて、本件物件を一括売却に付した原執行裁判所の手続には何らの違法、不当はないといわなければならない。

なお、原執行裁判所の一括売却決定は本件物件の買受人が右認定外道路を所有者同様の立場で占有使用できること、あるいは、およそ右認定外道路につき占有権限あるものはないことを前提としてなされたものでないことは一件記録に照らし明らかなところである(抗告人の指摘する現況調査報告書の「同道路の占有権原はない」との記載も、執行官が本件物件の所有者たる高城興産あるいは執行官において本件物件の賃借人であると認定した高木国雄が右認定外道路につきこれを占有する権原がないことを示す趣旨にほかならず、およそ前記認定外道路につき占有権原あるものはないとした記述ではないと解される)から、この点においても右原決定に違法の廉はない。

(二)  また、原執行裁判所が本件物件の最低売却価格を五四二一万五〇〇〇円としたのは、評価人の評価に基づき、本件物件の所有者であつた高城興産及び債務者協同工営株式会社の各意見を勘案し、本件が隣接地に建設中の病院の敷地として賃貸し得ること、本件物件は三五メートルに亘つて国道日光街道に接していること、本件物件は市街化調整区域内にあるが、許可を受ければ一般住宅の建築も可能であること、現況調査報告書記載どおりの前記認定外道路が存在することの事情をも斟酌して決定されたものであつて、右決定は相当であり、本件物件を一括使用できるものとした右決定の前提判断もまた是認できること前説示のとおりであるから、本件最低売却価格の決定に重大な誤りがあるということはできない。

(三)  更に、本件記録中の物件明細書には、右認定外道路に関する記載はないが、物件明細書に記載さるべきものは民事執行法六二条所定の事項、すなわち(1) 不動産(売却物件)の表示(2) 不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの(3) 売却により設定されたものとみなされる地上権の概要、であるから、右認定外道路に関する事項の記載がない故を以つて右物件明細書の作成に重大な誤りがあるということはできない。

以上のとおりで、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 蕪山厳 浅香恒久 安国種彦)

物件目録〈省略〉

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